スタンフォード式人生を変える運動の科学/ケリー・マクゴニガル 著/感想

ケリー・マクゴニガルさんの著書『スタンフォード式人生を変える運動の科学』を読了しました。

めちゃくちゃ骨太な内容で、子育て中の身としては、かなりてこずってしまいましたが、なんとか読了しましたので、勉強になった点をお伝えします。

ランナーズハイを引き起こす方法

結論を言えば、持久力を発揮することで、ランナーズハイを得られる。

自分にとってややきつい運動を20分は続けることで、運動による高揚感を味わえる。

ある実験では、30分間のウォーキングと全速力で走った場合は、内因性カンナビノイドの血中濃度には効果がなかった。しかし、ジョギングの場合は血中濃度が3倍も上昇した。

内因性カンナビノイドには、苦痛を和らげ、気分を向上させる作用があることが分かっています。

ランナーズハイを引き起こすポイントは、中強度の運動を継続することにあるようです。

私は長距離走の方が好きなので、良い内容だと感じました。

「人付き合いへの不安」を緩和する作用

ランナーズハイによって出される脳内化学物質の作用によって、人と繋がりやすくなります。

内因性カンナビノイドの作用に関する2017年のレビューによると、気分を高揚させる3大要因は、大麻中毒、運動、社会的つながりだったそうです。

一方、内因性カンナビノイドの血中濃度が低くなると、大麻の離脱症状、不安症、孤独という精神状態が現れるそうです。

内因性カンナビノイドの血中濃度が高くなると、人と一緒にいることが楽しくなるだけでなく、交流の妨げとなる社交不安が緩和される。そして、内因性カンナビノイドの作用が阻害されると、ランナーズハイを経験できなくなるのと同じように、人と交流する意欲や能力が削がれてしまうのだ。

p.48

また、定期的な運動によって、内因性カンナビノイドの結合部位が増大するようです。

内因性カンナビノイド系を活性化する快感に対して、脳がさらに敏感になるため、さらに喜びを感じやすくなる。

p.58

人と関わるのが苦手で、走るのが好きな私にとっては、何とも嬉しい内容でした。

これからもランニングは続けます。

運動とドーパミン

定期的な運動をした場合、脳の報酬系の活動は促進される。すると、ドーパミンの血中濃度およびドーパミン受容体の利用率がアップする。つまり、運動をすると、快楽を感じる力が高まると言える。

脳は、加齢とともに変化するため、成人の場合10年ごとに、報酬系のドーパミン受容体が13%減少してしまう。

すると、日常の喜びを感じにくくなってしまう。

しかし、運動をすることで、この減少を防ぐことができるのです。

運動は不安症に効く

運動を週に1回しただけでも、不安や抑うつ的反芻が緩和される。そして、定期的な運動によって、効果が顕著になる。

ラットを使った研究では、ラットたちを21日間走らせたところ、恐怖反応やストレス反応をつかさどる脳幹と前頭前皮質に変化が表れ、ラットたちはより勇敢になり、ストレスの多い状況にもうまく対応できるようになった。

p.93-p.94

人間の場合は、週3回の運動を6週間続けると、不安を軽減する脳の領域の神経結合が増える。また、定期的な運動によって神経系のデフォルト状態が調整されると、バランスがよくなり、闘争・逃走反応や恐怖反応が起こりにくくなることがわかっている。

p.94

また、運動によってつくり出される乳酸は、血管をめぐって脳に届き、神経系に作用して不安を緩和したり、うつ病を予防したりする効果があるとされている。

私は結構仕事で不安を感じたりするので、運動の効果として見逃せません。

朝は自転車で通勤していますし、仕事の昼休みに走ったりするので、この行動は間違いなかったんだ、と嬉しくなりました。

運動で「パーソナルスペース」が広がる

パーソナルスペースとは体の周囲の空間のことで、他人に侵入されると不快に感じる心理的な縄張り

p.110

とされています。

運動は自己感覚を広げる効果もある。

自己感覚が広がることで、ほかのモノやほかの人が自分の一部として含まれるようになり、パーソナルスペースが広がる。つまり、自分として認識する対象が広がることを意味している。

パーソナルスペースを広く保ちたい私にとっては、これまた運動の良い効果を知れて目からうろこでした。

自分事として捉える感覚が広がるという事は、運動によって「誰かを助けよう。」という気持ちも広がるのではないかと思った次第です。

また、自分の居場所だと感じるスペースも拡大されるそうです。それによって、自信がつき、人付き合いが楽になることもあると書かれています。

これについては、「所詮他人だし。」とか、「私のことを気にしているわけじゃないよね。」といったネガティブな感情が和らぐかもしれないと思いました。

「ここは自分の居場所で、自分の居場所にいる人が、ちゃんと自分を心配してくれているのだ。」というふうに、捉えられるようになるのではないでしょうか。

社会的グルーミング

エンドルフィンは、他人同士のつながりを強める効果がある。

一緒に笑ったり、歌ったり、踊ったり、物語を語ったりする活動は、どれも「社会的グルーミング」であり、エンドルフィンの分泌を引き起こすという。

こうして、協力を促す社会的なつながりがうまれるようです。

個人的には、親戚で集まるときはもとより、家族といる時ですら、ダイニングでテレビを見ながら、たわいもない会話をすることに、意味を感じられずにいました。

時間の無駄だと感じてしまうのです。そのような時間があるなら、読書したいとか考えてしまうわけです。

しかし、語り合うことはエンドルフィンの分泌を促し、協力関係を強化する。と聞いて、「エンドルフィンが出るなら語り合いって良いかも。」と思いました。

一方で、職場の人間関係も同じだよなと思いました。チームワークを醸成するためには「雑談が良い。」という話を聞いたりしますが、無駄話が職場の人間関係を強固にするのもうなずける話でしょう。

運動と「パワーソング」

ランニングの時に音楽を聴くと、楽に走れるという事は多くの人がご存じかと思います。この音楽について、「強壮剤」効果があると、科学の本に書かれていてうれしくなりました。

音楽によって脳が刺激され、アドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンが大量に分泌されると、活力が出て、痛みが緩和される。そのため音楽学者は、音楽には強壮剤のようなパフォーマンス向上効果があると考えている。

p.139

『スポーツ医学研究紀要』の科学的レビューの著者たちは、音楽は合法な運動能力向上薬であると結論づけた。

p.141

強い感銘を受け、精神的、生理学的な変化を起こし、アドレナリンによる興奮状態を引き起こす曲が「パワーソング」です。そして、パワーソングは歌詞が重要なようです。

歌詞に感銘を受けることで、疲労感や倦怠感や痛みが、和らぎ、運動による最初の不快感を乗り越えられるのです。

私も、今でこそ音楽を聴かないで9kmランニングしたりしますが、最初は音楽を聴きながら走っていました。音楽を聴くと辛いという感覚が薄れるのは確かなので、まだランニングが習慣化していない方などは、音楽を聴くのは良いと思います。

ランニングを習慣化したい方はこちらで詳しく説明していますので、是非ご一読ください。

グリーンエクササイズの驚くべき効果

グリーンエクササイズについては聞いたことはありましたが、詳しく知らなかったので、勉強になりました。

グリーンエクササイズとは自然の中で行う運動のことです。以下にその効果を列挙します。

・屋外で体を動かすと、気分が明るくなり、楽観的になる。

・日常生活の悩み事から離れ、生命のつながりを強く感じる。

・散歩をすると体内時計のペースが遅くなり、時間が長くなったように感じる。

・苛立った気分を穏やかにする。

・驚き、畏怖、好奇心、希望など、自然の中で過ごすときに湧いてくる感情は、心配事、注意散漫、気分の落ち込みなどに対する天然の解毒剤である。

・自然と触れ合うことで認知能力が向上する。

・屋外で活動的に過ごすと、マインドフルネスの状態になりやすく、自分よりも大きな存在とつながりを感じやすくなり、人間が本来もっている喜びに目覚める。

・ランナーズハイとは違い、グリーンエクササイズの向精神作用は即座に現れる。(内因性カンナビノイドやエンドルフィンなど、脳内化学物質の急激な増加による効果ではないと思われるという。)

・多くの人の脳のデフォルト状態にはネガティブ・バイアスがある。過去のつらい経験を何度も思い出したり、自分自身や他人を批判したり、心配すべき理由をしつこく考えてしまう。グリーンエクササイズは、自己批判や悲嘆、反芻と関連のある脳梁膝下野(のうりょうしつかや)の活動を低下させ、デフォルト状態を鎮静化させる効果がある。

・ふつうの土に含まれるバクテリアには、脳の炎症を緩和させる効果がある。土をいじることで、抗うつ剤としての効果が期待できる。庭仕事をして爪のすきまに土が入ったり、土を掘りをした場所で深呼吸するだけで、有益なバクテリアにふれられる。

ということで、いつも河川敷でランニングをしている私にとってはうれしい内容となっていました。

また、子供と一緒にお砂場遊びするのも、中々意味があるんだな、と思いました。

「希望の分子」マイオカイン

体を動かしているときに血液中に分泌され、体内のすべてのシステムに影響を及ぼすタンパク質を、マイオカインと呼ぶ。このマイオカインは筋肉中でつくられる。

筋収縮をともなう動きなら何であれ―ー―すなわち、ありとあらゆる動きによって、有益なマイオカインが分泌されるのだ。

p.267

以下にマイオカインの効果を列挙します。

・イリシン

 1 体脂肪を燃焼させる代謝機能

 2 脳の報酬系を活性化させるほか、天然の抗うつ剤効果がある

 3 イリシンの血中濃度が高いと、モチベーションが高まり、学習能力が向上する。

・血管内皮増殖因子(VEGF)と脳由来神経栄養因子(BDNF)

 1 脳細胞の健康を守る

 2 脳が新生神経細胞を生み出すのを助ける

・グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)

 1 中脳のドーパミン神経細胞を守る
  (ドーパミン神経細胞の破壊が進むと、うつ病やパーキンソン病などの病気につながる)

・その他のマイオカインの働き

 1 脳の炎症を抑え、神経疾患の予防や、うつ病、不安症などの緩和にもつながる。

 2 慢性のストレスによる神経毒性物質の代謝をうながし、神経毒性物質が脳に届く前に、血中で無害な物質に変える。

・厳しいトレーニングを重ねることで、精神力が鍛えられる

 ウォーキング、ハイキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳などの持久系スポーツでも、インターバル・トレーニングなどの高強度運動でも、メンタルヘルスにとりわけ効果的なマイオカインが分泌される。運動量の多い人たちが、トレーニングのスピードや強度を上げたり、練習量や距離を増やしたりすると、筋肉からさらに大量のマイオカインが分泌される。
 ある研究では、参加者が疲れ果てるまで走った場合、走っている最中にイリシンの血中濃度が上昇し、その後、回復期に入っても上昇したままであることがわかった。まるで、静脈内注射で希望を注入したかのようだ。

p.268

「強靭な肉体には強靭な精神力が宿る」という言葉は間違っていないようです。

毎日ではないですが、私は仕事の昼休みに約4kmのランニングをしたり、土日の早朝に起きられた場合は、約9kmのランニングをしています。そして、夜は可変式のダンベルを使って筋トレをしています。

子育て中で時間の確保が難しいですが、生活に運動を取り入れるように工夫しています。

メンタル、人間関係、脳機能、幸福、健康などありとあらゆることに運動が効果を発揮することは明白なので、この本を読んで是非運動に対するモチベーションをアップさせてほしいです。

<参考文献>
スタンフォード式人生を変える運動の科学