影響力の武器/ロバート・B・チャルディーニ/感想
無意識のうちに使っている思考の近道
私たちを取り巻く環境は複雑さを極め、現在では自分に関わるすべての出来事に対して、検討を重ねて決断を下すことはほぼ不可能です。その為、脳はあれこれ考えたりせず、思考の近道を使って自動的に反応しているのです。これを「判断のヒューリスティック」といいます。
これとは反対によく検討して行う反応を、「コントロールされた反応」と言います。情報を注意深く検討したいという欲求と、それを実際に行えるだけの能力がある場合、コントロールされた反応を取ろうとするのです。
しかし、忙しい日々において、全ての物事を吟味する時間はないでしょう。ですから、思考の近道に頼らざるを得ない部分も多いのですが、気を付けないと大失敗をおかすことになってしまうかもしれません。
思考の近道の例として、以下のようなものが紹介されています。
理由を添えると頼み事が成功しやすくなる
p.8 影響力の武器[第三版](以下の引用も同書)
理由の中身は関係なく、「~ので」という文言に、反応しやすいのです。「~ので、お願いします。」と言われると、理由は何であれ、聞き入れてしまう傾向が私たちにはあるのです。
「高価なもの=良質なもの」
p.10
最近、私は通勤用のレインコートを購入しました。今まで使っていたレインコートが水を弾かなくなったので、買い替えようと思ったのです。そこで、性能の良いレインコートを購入しようと思ったのですが、「何が」レインコートの質の良さを示しているのか分らず、ついつい高めの商品を購入してしまいました。
人間の知覚にはコントラストの原理というものが働いており、・・・二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のものと異なっていると考えてしまう傾向がある
p.22
最初に質や性能が劣った商品を見せられ、次に最初の商品よりも質や性能が上回る商品を見せられると、実際以上に良く見えてしまうのです。
本書ではこのような思考の近道の紹介と心理学的な解説がされています。
また、著者は、私たちが思考の近道を使ってしまうことを逆手に取って、自らの商売に利用しようとする人たちがいると警鐘を鳴らしています。ですから、カモにならないための防衛法も紹介されているのです。
本書は分厚くて読むのが大変な面もあいますが、各章の終わりに「まとめ」があるので、そこを読むという方法も良いでしょう。
どのような影響力の武器があるのか
本書では、第2章:返報性、第3章:コミットメントと一貫性、第4章:社会的証明、第5章:好意、第6章:権威、第7章:希少性という流れで、自動的に反応してしまう思考の近道が解説されています。
第2章では返報性の原則が説明されています。返報性の原則とは、他者から何か恩恵を受けたら、お返ししなければいけない義務感を感じてしまう反応のことです。
第3章のコミットメントと一貫性では、人には一度表明した立場を維持し続けたいという特徴があることが解説されています。
第4章の社会的証明とは、不確かな状況下において、人は他者の行動を参考にして自分の行動を決めるという性質のことです。
第5章では、人は自分が好ましいと思っている人の言うことを信じる傾向があることが説明されています。
第6章では、人は権力があると思っている人の言うことを信じる傾向があることが説明されています。
第7章では、人は希少だと思うものに価値があると感じることが説明されています。
影響力の武器を子育てに使う
1 子どもに望ましい行動を取り続けてほしいとき(第3章コミットメントと一貫性より)
ひとたび決定を下したり、ある立場を取る(コミットメントする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。
p.97
人は自分が外部からの強い圧力なしに、ある行為をする選択を行ったと考えるときに、その行為の責任が自分にあると認めるようになります。
p.150
子どもに何かを本心からやらせようと思うなら、決して魅力的なごほうびで釣ったり、強く脅してはいけないということが言えるでしょう。
p.151
重要なのは、望ましい行動をとらせるのと同時に、その行動を、自分が進んでとったのだと子どもに感じさせられるような理由を用いることです。ですから、外からの圧力を含んでいると悟られにくい理由ほど効果的なのです。
p.155
子どもがお風呂に入るのを嫌がった時、私は叱ったり、デザートで釣ったりしたことがありました。しかし本書を読んで、脅しやほうびで子供がお風呂に入ったとしても、それは外からの圧力で行動しただけだったのだと、反省しました。
そこで、少し説得方法を変えてみました。
「①汚いまま寝て、明日お友達に臭いと言われるか、②お風呂に入ってきれいになるか、どっちか選んでよいよ。」と伝えてみると、子供は泣きながら「お風呂入る。」と返事しました。
この説得方法が正しいかは分かりませんが、脅しやほうび以外で、子ども自身にコミットメントさせる方法を日々考えるようになりました。
2 子どもに物事を教えたいとき(第4章社会的証明より)
特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断します。
p.189
社会的証明の原理は、自分と似ている人の行動を見ているときに最も強く作用します。どう振る舞えばいいのかを考えるとき、一番参考になるのは自分と類似した他者の行動です。したがって、私たちは、自分と異なる人よりも、類似した人が示す行動に従いやすいのです。
p.226
子どもに何かを教えたいとき、大人(自分と異なる人)からあれこれお教わるよりも、教えたい事柄を既に達成している同い年の友人(類似した人)の姿を見せられた方が、影響を受けやすいと言えるようです。
「あの子ができているのだから、自分もできるはずだ。」と考え、やってみようという気持ちが起きてくるのです。
外見を磨くことには意味がある
人は見た目が9割とも言われますが、身体的魅力のある人は、人生において得をしているようです。
私たちには、外見のいい人は才能、親切心、誠実さ、知性といった望ましい特徴をもっていると自動的に考えてしまう傾向があります
p.276
なぜ、このような反応をしてしまうかというと、ハロー(後光)効果が影響しているからです。
ハロー効果というのは、ある人が望ましい特徴を一つもっていることによって、その人に対する他者の見方が大きく影響を受けることを言います。
p.276
人は身体的魅力のある人は望ましい特徴をもっていると考えてしまう。故に、身体的魅力のある人は、給料を多くもらい、周りから援助されやすく、人の意見を変化させる際の説得力があるようなのです。
と言うことは、外見を磨くことは人生をイージーモードにしてくれると言えるでしょう。
「人は中身が重要だ!」と言うのは簡単ですが、見た目が良いという事は明らかなメリットになるのです。
私はこれを読んで、運動(ランニング)の習慣があって良かったと思いました。一方で、甘い物が好きなので、太らないように気を付けようとも思いました。とにかく、運動によって見た目磨きを怠らないようにしようと気持ちを新たにした次第です。
<参考書籍>
影響力の武器[第三版]